カエルの目

 三十分後に起こしてね、と言い残し、彼女は机の上に突っ伏した。朝一番の授業、教壇正面の特等席。彼女はそこで堂々と居眠りをしている。
私はノートをとりながら、眼球運動をはじめた隣の彼女をちらりと見る。
眠ったあとの眼球運動が始まると、まぶたの下の目玉はまるで、カエルかカメレオンのようにきょろきょろとせわしなく回転する。彼女はコンタクトを入れているので、その動きは一層顕著だ。じっと見ているとかなり気持ち悪い。
さらに今日は、なぜか朝からまぶたがぼっこりと腫れていたせいで、彼女の目は半開き状態になり、黒目の移動がはっきりわかるというオプションつきだ。気味が悪いのを通り越して、これは恐怖である。
なぜまぶたが腫れているのか、理由は聞いていない。朝に会った時は、しきりに顔をうつむかせて気づかれないようにしていた。私もそれにつきあって、腫れには気づかないふりをしてやった。
どうせ夜中に大泣きでもしたのだろう。
嫌なことはそこらじゅうにあふれている。そういうことは、早く忘れるに限るのだが。
時計の針は九時三十分を指す。私はそれに気づかなかったことにする。
また彼女に恨まれるかもしれないが、そのときは笑って誤魔化せばいい。ノートくらいなら貸してやれる。どうせテストだ何だと苦労するのは、私ではなく彼女なのだ。
苦労ならあとですればいい。
今は眠って、すっきりするのもいいだろう。
カントよりもフレチェット女史よりも、ひとときのやすらぎを優先する、カエルの目をした友よ。

END.

 

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